さけくず。
借金総額500万以上の賭博狂が語る「酒の用法」
2020.07.25

借金総額500万以上の賭博狂が語る「酒の用法」

マニラのカジノで破滅しマフィアに金を得てまでも戦った経験を綴った「賭博狂の詩2」をキッカケに有名になった犬(@slave_of_girls)さんにお願いして、今回は「ギャンブル×酒」をテーマに一本書いていただきました!

酒の用法

太陽が傾き始める頃、競馬場の近くでは酒を片手に項垂れながらクシャクシャの競馬新聞を片手に心の涙を流しているおじさんたちがいる。後悔を肴にワンカップ酒なんかを飲んで感傷に浸る姿にもらい泣きしそうになった人もいるだろう。

「じゃあなんでギャンブルなんかやるんだ」

と思った人もいるだろうが、そもそもこの行為は極めて合理的な判断の元に行われている。

人がギャンブルで負けた時、少しの爽快感と大きな絶望が降りかかる。金額が自分の生活を圧迫すればするほど、型破りな自分に酔いしれ、その分大きな後悔に襲われる。アルコールは後悔を蒸発し、ギャンブルで負けた直後の不安感や絶望を取り除き、「やってやったぜ」という純粋な爽快感だけを残すことができる。ギャンブルを通して生まれた様々な感情を蒸留し、自分にとって都合のいいものだけを享受する。この快感がクセになるから、ギャンブルで負ける人間はよく酒を飲むし、性懲りもなくまた賭場に行く。

「ギャンブルと酒」をテーマに何か書いてくれと言われたが、これを聞いてみんなが思い浮かべるのは先述した光景が多いだろう。だが僕が伝えたいのは警告だ。

飲んだら打つな。
打つなら飲むな。

自動車が発明されるずっと前からこの格言は存在する。要は順番を守るべき、という意味だ。

人の器の大きさは決まっている。酒は、そのタガを緩め、ついには外してしまう。まどろみの中で下した決断は、良好な結果以外受け入れ難い。気付いたら自分でも覚えていないくらい負けた時、人の視界は本当に傾く。福本先生の「ぐにゃあ」はまさにそれそのもので、酒を飲んで失敗した事に後から気づくあの絶望こそが、ギャンブル依存症が抱える苦しみなのだ。
ギャンブルを終えた後の酒は美味い。それならいい。おそらく今まで飲んだ酒は全部美味しく感じているだろう。舌がバカになっているからだ。勝利の後の酒はその喜びにツヤを出し、負けた後の酒はその痛みを隠してくれる。こんなにダイレクトに感情を書き換える飲み物が未だに世界中で許されている事実が不思議でならない。ドラッグなんかなくても人は変われるじゃないか。

僕は酒との正しい付き合い方を知っている。はずだった。

日本国内でのギャンブルはパチンコに始まり、競馬、競艇と、基本的にほとんど夜にはできなくなる。そして人が酒を飲むのは大抵夜だ。酒とギャンブルの順番は自然と住み分けられているので、酒に溺れたままギャンブルをしてしまう罠に引っかかってしまう人は少ない。

僕が落ちた落とし穴はカジノにあった。
海外のカジノには閉店が無い。酒を飲んで気持ちよくなったまま鉄火場に遊びに行くことができる。恐ろしいのはここからで、カジノの中ではドリンクが全部無料になっている。定期的に自分に声をかけてくるドリンク係。彼らが持つお盆の上にはコーヒー、ジュース、そしてビールがあり、こちらのチップの状況を見ながら

「ワオ!幸運のビールはいかが?」

なんて悪魔の囁きをしてくるのだ。ディーラーも

「ここで飲まないなんてある?」

と煽ってきて、すでにカジノに場酔いしている人間にとってこの挑発を無視することはできない。酒を飲んでさらに強くラッキーになった僕をその両目に焼き付けてやろうと受けて立ってしまう。
僕がよく行くのはフィリピンのカジノだが、この国で一番売られているビール「サンミゲルライト」はとても飲みやすい。炭酸よりも苦味が強いので、口の中の留めずに一気に喉奥に押し込む。超喉越し特化型で、アルコールを直接脳にパスしてくる。無料だから3杯ほど飲んでしまった。

アルコール度数はそれほど高くないのに一気に飲むから視界が揺れる。初めてエヴァンゲリオンに乗ったらきっとこんな感じなのだろう。LCLが胃と脳を満たす。手元には数十万円。

「departure(出発)...」

無造作にチップを全部前に押し出しながら呟いた。顔を赤くしたアジア人がそんなことをしたもんだからドリンクガールとディーラーが死ぬほど笑っていたのを覚えている。本当は「発進」と言いたかったが、語彙の壁は少し高かった。

この時はカードも自分で確認せず、さっさと結果だけを見たが、勝った。

無職の人間が数十万円を賭ける時、普通は心臓がはち切れそうになる。置いてしまってもう引き下がれなくなると時間がゆっくりと進み、結果を見る前なのに「やってしまった」と鋭い後悔に肺を刺される。

だがアルコールが入っている僕は強かった。まるで他人事のようにカードをペロペロめくり、あっという間に勝ってディーラーにウインクをして1万円渡していた。

「タガ」とは桶を縛る金属の輪だ。これが無いと桶はバラバラの木の板になってしまう。タガが外れるとは、桶が壊れて中の水が全部こぼれてしまうことまで意味する。
数十万円を賭けるのに必要な覚悟が少なかったのは、タガが緩んで桶のサイズが少しだけ大きくなったからだ。外れるギリギリまでタガを緩め、普段賭けられない金額を賭けてしまうのは、間違いなく人を破滅に導くが、逆に有り得ない勝ち方をするならばタガを緩める人間でないといけない。

「100万円勝てる人間は、100万円負けれる人間だ。」

ギャンブルシーンで様々な人がこの結論にたどり着く。1/2で勝つ究極のギャンブルがあるとして、そこで100万円勝つには100万円賭けなきゃいけないし、1,000万円勝つためには同じように1,000万円賭けれなくてはならない。酒はその覚悟のブースターになる。

フィリピンの有名なビール「サンミゲル」は、ライト、プレミアム、アップルエールなど様々な種類がある。フィリピンは赤道直下で1年中常夏の国なので、飲み物はこれでもかというくらい冷えたものに氷が入れてあることが多い。外で飲むビールは、照り付けられて熱くなった体表と、冷たすぎる飲み物を注いだ内臓とのギャップで脳を破壊する。なんだか楽しくなってきて、検査も受けてないであろう野良犬にちょっかいを出してみたくなる。それは寒すぎる体にウォッカを流し込む北国の生活に近いのかもしれない。極端な気候ほど酒は味以上のポテンシャルを発揮する。

遠い南の国で、僕は無敵になる方法を見つけた。友達と夜の街を練り歩き、散々金を使って遊んだ。サンミゲルライトで無敵スイッチを入れた僕はふらりと入ったボロボロのカジノで酒を片手に無造作に100万円を賭けた。

「100万円勝てる人間になるには100万円賭けれないとダメなんですよね〜」

目に入る人みんなが笑って見えた。幸せの中心はこの僕。フィリピンは最高だ・・・!

あの時の2連敗がなければ今こんな生活を送ってなかったかもしれない。朝目覚めて記憶にない200万円を思い出した時、胃液が勢いよく上がってきたのを覚えている。フィリピンに住んでいた1ヶ月のまだ途中の出来事だったが、その時はショックと、効きすぎた冷房で体調を崩した。

飲んだら打つな。
打つなら飲むな。

借金を返済したら、この文字のタトゥーを両胸に刻もうと思う。

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WRITER
犬

カジノで破滅した社会のサンドバッグ

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